Independence Archive of Bangladesh

-- A new communication design technique for archiving information about a developing country --

研究背景

著者は2009年2月にグラミン銀行の特別調査員としてバングラデシュを訪問し、その魅力と、貧困に代表される諸問題を認識した。しかし現在、開発途上国、特にバングラデシュに関する情報はほとんど一般に伝わっていない。資料のほとんどは、専門的な書籍や論文として残されており、一般の読者向けに分かりやすくデザインされたものは少数しか存在せず、少数の専門家の間でのみ情報が共有されている。一方、NPOは現地活動を通じて得られる詳細な情報を、一般の旅行者は異国人の視点からみた独自の情報を、各々保持しているが、それらを外部に伝えるための効果的な手段を持っていない。テレビなどのメディアでしばしば特集が組まれることもあるが、どこまでが真実でどこからがデフォルメなのか、判別するのが難しいという現実もある。 最も懸念すべき問題は、バングラデシュ独立当時をよく知るこの分野の先駆者、あるいは当時の体験者はすでに高齢となり、彼らの活動の軌跡や言葉が少数の文献にしか遺されていないことである。現在、多くの人がバックパッカーとして「アジア最貧国」と称されるれるバングラデシュを訪れているが、その歴史や文化を真剣に理解しようという者は少なく、知る手段も用意されていない。 著者はこれらの点を解決するために、歴史上のできごとと上述した先駆者・体験者の情報、さらにはNPOや旅行者を含む「異国」の人々の持つ情報を収集し、さらなる「異国」の人々に伝えるためのインターネット・アーカイブの構築を進めている。さらに、大量の情報を俯瞰的・直感的に把握可能にするコミュニケーションデザイン手法も研究している。卒業研究ではその第一フェーズとして、「建国当時のバングラデシュと日本の関わり」に照準を絞り、「Independence Archive of Bangladesh(バングラデシュ独立アーカイブ)を制作した。

既存の事例

詳細な情報を扱ったコンテンツの事例としてはWikipedia(注1)、バングラデシュ政府の公式ウェブサイトなどがあり、flicker(注2)、facebook(注3)などのソーシャルサービス内ではバングラデシュに関するさまざまな情報がやりとりされているしかしこれらはそれぞれ個別に存在しており、俯瞰して体系的に理解することが難しい。また主に文字情報と画像を使った旧来のウェブメディアで記述されており、直感的に内容を把握することが難しいため、専門家以外のユーザにとって「興味・関心」レベルに留まる可能性があり、また「誤解や偏見」を生むおそれもある。直感的に操作可能なインターフェイスを持つアーカイブ(システム)の先行事例としては、tuvalu visualisation project(注4),hiroshima(注6)、Time and Space Mapping Software(注7)がある。これらの事例は、メディアアート的なコミュニケーションデザイン手法を用いることで、情報の俯瞰的な閲覧を可能にしている。ただし、各々不足している点がある。tuvalu visualisation projectは現在進行中の事象を伝えるコンテンツだが、長期にわたる歴史上の情報はカバーしていない。Hiroshimaは映像作品して完結しているためアップデートすることが難しい。Time and Space Mapping Softwareは写真と位置情報を組み合わせることで、俯瞰的に情報を伝えるシステムであるが、写真のみが表示されているため、文脈を伝えることが難しい。著者は、こういった事例群の長所を活かし短所を補完しあうことで、バングラデシュに関する断片的な情報を結びつけ、俯瞰的・直感的に把握可能なコンテンツを実現できると考えた。

アーカイブした情報

最終的にはバングラデシュ独立当初1971年から現在までの歴史を4部構成で網羅することを目標とするが、卒業研究ではその第一フェーズとして、バングラデシュの独立運動に大きく貢献したムジブル・ラーマンが活躍した1971~5年の日本の朝日新聞記事のスキャンデータ756点をアーカイブした。

試みたコミュニケーションデザイン

ユーザが、集約された情報を俯瞰的・直感的に把握できるとともに、歴史上のできごととユーザが投稿した写真・メッセージ群が、ウェブサイト上でコミュニケート(交わる)するようなデザインを試みた。 今回は地理情報と連携した3Dコンテンツを容易に制作・公開可能なgoogle earthをプラットフォームとして用いた。天地方向(z軸方向)に、地面を過去、天を未来と見立てて各年代ごとの平面レイヤーが並ぶ。各レイヤーには時計のように放射状に1月から12月の駒があり、新聞から抜粋された歴史上の出来事は日ごとに割り振られる。一つの記事につき一つのバルーン(吹き出し)が用意され、新聞記事の見出しがアイコンとして表示される。全ての見出しはタイムスライダーを用いて時間軸に沿った絞り込み表示が可能である。700件以上の記事群の可視性を高めるために、それぞれの見出しは通常は小さく縮小表示されている。ユーザがマウスオーバーすることで4倍の大きさに拡大され、見出しの詳細が表示される。さらに見出しは英語で対訳されており、日本語記事の本文を読めないユーザでも、どのようなトピックが当時存在していたのかを把握できる。記事群は、”ムジブル・ラーマン・政治”、”市民生活”、”戦争・デモ運動”の3属性が付加されている。地上レベルに表示される三角形の各頂点に3テーマを記したアイコンが配置され、各頂点から関係する記事に向けてポリゴンラインが表示される。これにより、ユーザは各記事の属性を直感的に把握することができる。コミュニケーションの窓口として、ユーザによる写真とコメントの投稿機能を用意した。投稿された写真とコメントは各年代ごとの定点に集約され、マウスクリックすると展開して一覧に表示される。さらに、写真の撮影地点またはアップロードされた地点から、各年代ごとの定点に向けてポリゴンラインが表示され、コミュニケーションの拡がりが可視化される。flickerとも連携させ、過去にアップロードされた写真も自動的に収集し、バルーン内でスライドショーとして閲覧することも可能である。

今後の構想

私はこの研究成果が、バングラデシュが持つ魅力を効果的に伝えるとともに、同国の抱える諸問題の解決の一助となると考える。専門的な知識や立場を持たない人の意見をwebに起こし、アーカイブを作成するこのコミュニケーションデザインは、開発途上国のみではなく、戦争、紛争についての情報共有にも役立つ。 自身ではwebに馴染みがなく一般に公開する手段を持たないものを世間に公開していく一助となると考える。 また、特定の知識人や高齢者の言葉をアーカイブし、文献あるいは口頭でしかアウトプットされない人の言葉を一般に広く伝えることにも応用可能である。 次の段階では、バングラデシュにおいて建国から現在にいたるまで大きく働かれた東京外語大学名誉教授である奈良毅先生にご協力を募り、文献として残されている「歴史」と現場で大きく貢献された方の声を共生させるコンテンツを考えている。 第二フェーズ、第三フェーズ、第四フェーズではそれぞれFlashやJavascriptなどを利用して、特定のソフトウェアを使用せずともユーザが参加可能となるものを考えている。更に今後発案されるだろう新しい媒体を使用することも試みる。 また、今回の卒業制作で学んだ”アーカイブ手法”を、バングラデシュ以外にも自身の祖父母の戦争体験のアーカイブや、春に出産予定の子供とともに新生児の一年間の成長記録などの作品に応用することを考えている。